2016年3月30日水曜日

能動的演奏考 下 ~普段の練習ですること~ 

 前回までは、本番やその当日の事についてを主に記してきました。
 今回は、毎日の練習でするべき事について記します。

 【音楽を奏でるために】

 最初にやはり強調しなくてはいけない事は、練習のどの段階にあっても、その音やフレーズの持つ意味・前後関係を考え、音楽を考えながら練習をしなくてはいけないと云う事です。当たり前の事ですが、しかし当たり前の事は常に大切です。それを踏まえたうえで、普段の練習で何をすべきかを記していこうと思います。

 【楽譜から情報を適切に読み取る】

▼楽曲に取り掛かる最初の作業は譜読みですね。しかしこの譜読みの段階が、音楽を創るために最も大切な段階です。それは、楽譜の中にはすべての事が書かれてあり、また"隠れている"ためです。その一つも見落とさないように、自分の気持ちとは距離を置いて分析をすることも、時には必要です。

 例えば、楽曲には"楽節"という大きな塊があり、前楽節と後楽節によって一つの楽節が成り立っています。その楽節の中にはいくつもの"ニュアンス"があり、それは作曲者によってスタカート、或いはレガートやアクセントといった形で指示が為されています。それらを支えているのは"和声"であり、和声には緊張と緩和があります。また拍子にも強弱があり、これは例外なく、その楽曲の曲想に大きな影響を与えています。和声感や立体感を出すにはアーティキュレーションを…等々。これらのすべてを楽譜から抽出し、そして最適化させる作業が譜読みです。

 譜読みと同時に、その曲のキャラクターも捉えていく必要があります。
 キャラクターは、テンポ表示(Allegro...Alegretto...Adagio...)や調性に関係しており、またリズム感ともよく密接に関係しています。分析を行い、読み取った情報にキャラクターを持たせていけば、その曲の持つ個性や意味が音楽となって現れてくることでしょう。それだけ、楽曲の分析は大切な段階であり、必要不可欠な作業です。

 実は、多くの技術的な問題は、音楽的な問題の中に集約されています。
 なぜなら音楽は緊張と緩和の連続であり、小さなフレーズの中にさえこの緊張と緩和は隠れています。これを読み違えてしまうと、楽譜と演奏に矛盾が生じて、意味の通じない演奏になってしまいます。しかし、楽譜を適切に読み取れば、多くの技術的な問題は解決されます。
 
 上記のような分析を行い、そしてそれに基づいて自分の音楽を確立していく練習が、普段の大半の練習です。このような練習を続ければ、"意味"と"確信"をもって演奏することが出来ます。そして遂にはには自己と音楽とが一体になることが出来ます。

 本番が近づくにつれ、舞台上で音楽を奏でることを想定した練習が必要です。これは、舞台上で音楽を奏でるための精神的な準備です。舞台に上がった自らを想定して、やりたい音楽に執心する。僕が思うに、練習からいきなり舞台に上がって音楽を奏でる事だけに集中できるほど、人間は割り切れるものではないと思います。
 

(※22/5/2016に追記)
▽緊張は、心と体の準備のようなものです。なんのための準備か、それは勿論、音楽を奏でるためですね。
 加えて最近僕が思うのは、舞台上での自分自身の演奏に感動するという事です。
 自分が感動していないもので、一体聴衆が感動してくれるでしょうか。また例え聴衆が感動されたとしても、自分が納得していなければ不満ではないでしょうか。
 舞台上で自分の演奏に感動する。そのための準備の一つが緊張なのだと思います。


 この段階を経て本番を迎えれば、舞台上で自己と音楽が一体になる演奏が実現し、音楽を奏でる事に集中できると確信しています。


 これまで上・中・下と、舞台で音楽を奏で るために必要な準備について記してきました。しかしここに記したことは、あくまで音楽を、最も抽象化した捉え方にすぎません。
 譜読みの仕方や体の使い方等については、別の記事でもっと踏み込んで記したいと思います。 


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