2016年4月27日水曜日

Elisabeth・Leonskaja 協奏曲&リサイタル 4月22・24・26日 

 ブリュッセルにあるコンサートホールPalais des Bozart(パレ・デ・ボザール)で行われたElisabeth・Leonskaja氏のコンサートに赴いてきました。今回はその思い出を記します。

▼このElisabeth・Leonskaja氏は、僕が最も憧れているピアニストなんです。
 彼女の身体から放たれる音楽は、深く静かに聴衆の中に入ってきて、心の泉を潤すように染み入ってきます。そして彼女の立ち姿と振る舞いの優雅さを目にすると、それが尊敬せずにはいられない音楽家であり芸術家であり、人物なのだと思わずにはいられません。

 さて、僕のElisabeth・Leonskaja賛はこれくらいにして、こちらが今回のプログラムです。↓

 2016年4月22・24日
 Concerto pour piano et orchestre, op. 54 Robert Schumann

 2016年4月26日
 Sonate pour piano, op. posth. 122, D 568 Franz Schubert
 Fantasien, op. 116 Johannes Brahms
 Sonate n° 2, op. 37 Pyotr Tchaïkovsky

▽まずはシューマンの協奏曲の感想、、、というか、ちゃんと感想になるのかな。。。

 もう、凄すぎでした。演奏中に「すごい・・・」って何度つぶやいたか。
 とても譜面に忠実なスタイルで、細部のアーティキュレーションや和声進行が目に見える演奏。そしてその上で、彼女の持つ音質、羽の生えたような音と、音楽的で目の覚めるようなフォルテを以って、シューマンの性格的な表情を見事に表現していました。

 僕なんかはもう、彼女が出てきただけで感動。
 優雅に表れたLeonskaja氏は静かに椅子に座り、かと思えばシューマンの協奏曲の出だしを、音楽的な強烈でFで開始。それでもう、痺れました。第一主題に入る際に配置されている前打音の後に、第一音をホールに放つまでに使われた時間は、アクセントの指示がされている第一音の印象を奥深く、聴衆に印象付けるものになりました。(この部分の指示は"P espress.")

 本番後は勇気を出して楽屋へ。少しだけお話をすることが出来ました。
 僕が"次にこの曲をやろうと思っているんです"と言うと、「じゃあ三楽章に気をつけてね。決して速く弾きすぎないように、これはワルツなのよ」とのお言葉。彼女のように生き生きとした表現をするためにも、しかと胸に刻んで、楽譜を読み進めていこうと思います。

▽そしてソロリサイタル

 まずはシューベルト。めちゃ凄かった。
 とても上手に弾いたとしても、途中で飽きてしまいがちなF.Schubertさん。しかし彼女の手に掛かれば、それは深い森の散歩道を歩き進むような、とても瑞々しい時間に変わってしまいました。
 僕には、その中でも特に強く印象に残っている瞬間があって、それは彼女の音楽の中で静寂が、コンサートホールを支配した瞬間が訪れた時です。この静寂が何度も訪れる。ぼく自身、静寂が聞こえて来る演奏に出会うのは初めての経験であり、その瞬間の尊さに、感動を覚えずにはいられませんでした。演奏を聴いていて涙が浮かんだという経験も初めてかも。

 そしてブラームス。本当に素晴らしかった。
 聴衆に対しても集中力を求めるプログラムではありますが、その集中力を切らさせないのはピアニストの凄さですね。彼女のop.116には圧倒されました。
 ただ上手に弾くだけでは、途中で時計を確認しいてしまいがちなこの曲。しかし彼女の手にかかれば、これも怪しい夢の中を探るような、ブラームスが彼の心の内を吐露するような、味わい深い音楽へと生まれ変わり、その演奏に只々集中して聴き入っている自分がいました。
 うーーん、この曲。まだまだ自分には弾けないなぁ。すべてを理解するには若すぎる。
 それほどに複雑なものを感じさせる演奏でした。

 休憩の後にチャイコフスキーのソナタへ。心が躍った。
 シューベルトとブラームスとチャイコフスキー。このキャラクターの全く違うはずの作曲家たちを、一つのプログラムにまとめ上げ、一つのコンサートとして彼女は育て上げた。そして特筆すべきは、この3人のどの作曲家を聴いている時も、いつも作曲家の意図した、その曲のあるべき姿を感じながらにして、いつもpaforming by Elisabeth・Leonskajaな所だと思います。
 その最後を飾ったチャイコフスキーのソナタからは、ロシアの民族的な、暖かい土地に憧れ続ける、そしてどこかちょっと間の抜けているような、親しみの持てる人間性。そんな匂いが立ち込めて来ました。
  
 アンコール 
 F.Liszt"ペトラルカのソネット104番"
 L.v.Beethoven "テンペスト 3楽章"
 F.Chopin"Nocturne op27-2"

 このアンコールが、とてつもなく素晴らしかった。

 ペトラルカでは、主題に入ってから現れるアルペッジョが極めて濃縮された状態で行われ、その表現の仕方に度肝を抜かれました。たまに優しく行われるアルペッジョがまた良い。 

 ベートーヴェンでは、古典の奏法に則った弾き方に加え、素晴らしいアーティキュレーションの表現。そして作曲者が与えたアクセントを的確に表現し、立ち上がる演奏は芸術そのもの。pで迎える最後の終わり方には、胸がグッとなりました。

 最後の曲となったショパンのノクターン。これは至高。遠い無意識、夢、静寂の中に連れ去られる思いで、これもまた、やられました。

▽やられたままの状態で、ボーっとして終演後の舞台裏に赴くと、彼女にグッと姿勢を正されてしまいました。苦笑です。そして僕は、もじもじ。もじもじ。もじもじ。まじ、おれ、しっかりして欲しかったです。
 しかしながら、又ちゃっかりとサインをしてもらい、完全にミーハーと化してしまいました。あぁ、もっとちゃんとお話をしたかった。

▽なんだか、ずっと凄い!!凄い!!と書いてきましたが、僕たちが一番に驚くべきことは、彼女の体の動きと音楽が、常に一体化している事だと思います。

 彼女の腕の動きは常にフレーズを創っており、また、音の長さを形作っています。音が空中を漂っている時には、彼女の腕もまた、鍵盤の上の方で漂っています。また大きな音価のみならず、細かいアーティキュレーションの際にも、音の緊張と緩和に即して、体の動きが緊密に連携しているのが見て取れます。
 他にも鍵盤の底に手を放り投げたり、時には跳ねるようにして長い音を立ち上げたり。これらの動きは音楽に直結していて、特にポルタメントを弾く際に行われる腕の動きは、僕のお気に入りです。

∴熱に浮かされてDVDも買ってしまったので、いろいろと研究して取り入れていこうと思います。


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