2016年3月7日月曜日

三月二日 グレゴリー・ソコロフ ピアノリサイタル

 ブリュッセルでは毎年の恒例となっているソコロフのピアノリサイタル。
 今年も喜び勇んで行ってまいりました。
 と、せっかくなので感想やらを忘れないように、また一端の音楽家らしく、記してみます。

 プログラムはこちら↓

 Arabeske, op. 18 Robert Schumann
 Fantaisie, op. 17 Robert Schumann
 pause
 2 Nocturnes, op. 37
Frédéric Chopin
 Sonate pour piano n° 2, op. 35 Frédéric Chopin

 これまでの彼の演奏で、特に印象に残っているのは、ベートーヴェン7番ソナタとショパンの3番ソナタの演奏です。
 ベートーヴェンでは、作曲者の意図したすべての表現を、余すことなく完全に再現し、そして彼自身の解釈と一体化させた見事な演奏でした。またショパンも同様に、一つの音も疎かにしない、恐ろしく洗練された音楽表現であって、聴き手にも相当の集中力を求めてくる演奏でありました。

 さて、そんな彼の演奏を聴いてきたので、否が応にも期待は高まります。

▼シューマンのArabeskeから始まった演奏会は、始まった途端からソコロフの世界で「お、来たな」と心の中で嬉しさを噛み締めました。しかし一旦Fantaisieが始まると、いつものソコロフの音ではない音で始まり、終始その粗暴な音で曲は進んでいきました。
 疑問が一気に膨れ上がる一方で、曲のキャラクターを"故意に"際立たせているのかとも思い、なんだかcarnaval 謝肉祭の様相もあって(季節的にも)楽しく賑やかな演奏であるとも思いました。粗暴なFFは残念でしたが、ペダルの使い方や旋律の歌い方の部分で、なるほどと思える部分も沢山あり、とても勉強になりました。
 
 僕にとっては、以前のショパン3番ソナタの強烈な記憶もあるからか、今回のショパン2番ソナタは更に納得の出来ない演奏でありました。各々のアーティキュレーションを尊重していると言えばそうなのかもしれないのですが、許容範囲を大幅に超えてはいないか?との疑問が残ってしまう演奏。そしてやはりシューマンと同様に粗暴な音が目立ってしまい、洗練されたショパンとは程遠いものだったと思います。
 しかし、3楽章の途中までと4楽章だけは、素晴らしい彼の『正解』の演奏を示してくれました。特に4楽章は『こうあるべき』という演奏を示してくれて「これぞソコロフ」という解釈を、最後の最後で示してくれました。

 プログラムとは対照的に、(いつものように)30分にも及んだアンコールの小品群は、恐ろしく洗練された作品ばかりで、全てが印象深く、そして興味深い演奏でした。これを聴くだけでも価値のある演奏会だったと思います。
 
 全体として、ソコロフはいつも僕に『正解』の一つを示してくれるピアニストなので、その分の消化不良を今回は大いに感じたんだと思います。しかし、いつでも『正解』を出せる訳ではないという意味では、とても思い出深い演奏会の一つとなりました。

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